「森光子」が出撃直前の零戦乗りに渡した「手作りの人形」…彼女が戦後に語った「この時の想い」
2026.02.01- #太平洋戦争
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神立 尚紀
カメラマン・ノンフィクション作家
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太平洋戦争で軍人として最前線で戦ったのは、明治後期から大正、昭和初期までに生まれた人たちだった。戦後81年。当事者のほとんどが鬼籍に入り、「忘れてはならない」の掛け声とはうらはらに、確実に戦争の記憶は遠ざかってゆく。そして終戦後、当事者たちがどのように生きたかということは戦争中の出来事以上に知られていない。だが、戦後、焼け跡からの復興を担ったのもこの世代だ。ここでは、私が30年以上にわたり、直接インタビューした元海軍戦闘機搭乗員の「戦後」をシリーズで振り返る。海軍の戦闘機搭乗員は、戦後50年の平成7(1995)年に1100名が存命だったのが、それから30年が経った令和7(2025)年10月現在、数名の存命が確認できるに過ぎない。
最前線に投入された戦闘機搭乗員の8割が戦没した苛烈な戦争を生き延びた彼らは、どのような戦後を過ごしたのか。今回は終戦の日まで戦い続けた吉田勝義飛曹長を紹介する。
前編記事<「終戦の日の朝」に敵機を撃墜した零戦パイロットが、憲兵を追い返して回避した「最悪の悲劇」>から続きます。
吉田勝義氏(2015年。撮影/神立尚紀)この記事の全ての写真を見る(全10枚)-AD-慰問団として訪れた森光子
戦闘三〇四飛行隊の空戦から約1時間後、こんどは敵機の第二波73機と、厚木基地を発進した第三〇二海軍航空隊の零戦8機、雷電4機が藤沢上空で激突している。三〇二空は米海軍のグラマンF6F戦闘機4機を撃墜したが、零戦の田口光男大尉、雷電の蔵元善兼中尉、武田一喜上飛曹の3機が還らなかった。米英の搭乗員も、処刑された者をふくめ10名が死亡した。
本人が当時つけていた日記によると、吉田は終戦までに単独で撃墜5機、撃墜不確実5機、協同撃墜40機の戦果を挙げていた。飛行時間は約1700時間という。
甲飛六期の吉田の同期生は、一緒に卒業した252名のうち40名を残すのみとなっていた。戦闘機搭乗員は47名中、じつに9割を超える43名が戦没している。
「8月25日、部隊が解散となり、東海道線の貨物列車と、京都からは普通列車を乗り継いで復員しました。故郷香住も、漁船員が船ごと軍に徴用され、軍人同様の戦没者を出していました。現に私は、木造、焼玉エンジンの、香住の底引き網漁船をマニラで見たことがあります。あの小さい船でよくこんなところまで来たな、と驚きましたね」
故郷に帰った吉田は、親戚の伝手を頼って農協で1年半働き、続いて昭和22年から半世紀にわたって漁網会社(香住漁網株式会社/現・株式会社カスミ)に勤めた。昭和27年に結婚。
「ちょうどその頃、自衛隊が発足し、二五二空で飛行だった新郷英城さん(中佐、のち空将)から勧誘を受けたんですが、また飛行機に乗る気にどうしてもなれず、断ってしまいました。戦争の、あんな思いはもうこりごりですからね。自衛隊や民間航空で飛び続けた戦友も多いんですが、私にはできなかった。鳥取に転居したのは昭和43年、本社工場の移転によるものです」
ところで吉田は、昭和52(1977)年8月13日に放送されたNHK「第九回思い出のメロディー」に出演している。
昭和18年10月から12月にかけて、海軍省恤兵部が派遣した慰問団が、ボルネオ、セレベス、チモール、ジャワ、バリを巡業している。慰問団は総勢24名で、その中に歌手として森光子が加わっていた。森光子著『人生はロングラン』(日本経済新聞社)によれば、このときのメンバーは、歌手・松平晃、林伊佐緒、松竹少女歌劇団の田村淑子、天草みどり、三田照子、浪曲の天中軒月子、太神楽の鏡味小鉄、それにコミックバンドのハットボンボンズといった顔ぶれだった。慰問団はボルネオ島バリクパパンから船でセレベス島マカッサルに渡り、ここの富士ホテルをベースに海軍基地を回ったのだ。
吉田は、10月6日、進出していたラングールからケンダリーに移動を命じられ、ケンダリーに着いたその晩、慰問団の演芸会を見た。
白い襟のついた紺のワンピースを着た森光子は、「愛国の花」「タイの娘」「ブンガワンソロ」を熱唱した。殺伐とした前線基地の、そこだけに花が咲いたような美しさであった。一曲が終わるたび、やんやの大喝采が起こった。だが吉田は、移動飛行の疲れが出て、演芸会が終わるのもそこそこに搭乗員室に帰って眠りについた。
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