某カップ麺CMに対する男女の“反応の違い”に垣間見える「マイクロアグレッション」
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婦人の手習い社会学 世の常識に、ひざカックン 某カップ麺CMに対する男女の“反応の違い”に垣間見える「マイクロアグレッション」 2025.3.4渥美 志保
231ははーん、これがまさに「マイクロアグレッション」ってことなんだな、と思ったこと。それは、つい最近おきた某カップ麺のアニメCMをめぐるあれやこれやです。
CMには女性版と男性版があるんですが、まず女性版を見た私は、そこに登場するいわゆる女性像に「アニメにいつも感じるモヤモヤ」を覚えました。
そのモヤモヤが明確になったのは同じCMの男性版を見た時です。それは「仕事が終わらず食事時間も惜しむ男性教師が残業飯として、とりあえず食べたカップ麺、ああ、沁みる……」といったもので、私のような働く女性であれば「わかる!」とストレートに共感できるものでした。
そのうえで改めて女性版を見てみると、日常をフラットに描いた男性版にはない、独特の情緒感に否応なく気付かされます。なんというか、男性が思い描く「可愛い女の子は、一人の時はきっとこんな感じに過ごしているはず」という妄想のような。少なくとも「家で一人でドラマを見るときくらい好きにリラックスさせろ」というような、女性のリアルは感じられません。
つまり、CMの男性キャラが「自分の意志で動く主体」であるのに対して、CMの女性キャラは「他者の視線を意識した客体」と感じられてしまう印象です。私個人としてはそこまで性的とは思いませんでしたが(アニメに詳しい人は、一定の仕草に記号化されたセックスを読み取るようです)、「男性は残業メシで仕事」で「女性が家でドラマ見て涙ポロリ」という設定も含めて、多くの女性が「何か引っかかる」というのは理解できます。
さてこれがなんで「マイクロアグレッションってことなんだな」なのかを語るには、まずは「マイクロアグレッション」ってなんなのさ、というところから始めなければなりません。
直訳すれば「めっちゃ些細な攻撃」。
ハーバード大学医学部准教授、内田舞さんの著書『ソーシャル・ジャスティス 小児精神科医、社会を診る』によれば、その定義は「政治的文化的に疎外された集団に対して、日常的に行われる何気ない言動に現れる偏見や差別に基づく見下しや侮辱、否定的な態度のこと」。
例えば白人が「黒人なのにすごいね」と褒めた時、その白人の中には「黒人は白人よりも能力が劣っている」という前提があります。褒められた側の黒人にしてみたら、それが褒め言葉であっても何だ微妙な気持ちになるのは当然のこと。「黒人なのにすごい」と「黒人のくせに生意気」は、黒人を貶めていると言う意味ではどちらも同じなのですが、「黒人なのにすごい」の何が始末が悪いって、褒める側が自分の無神経さにはまったく無自覚という点。
女性ジェンダーについてだと、男性からの「セクハラされるのは美人だから」とか「女性は夫に頼れて羨ましい」とかいう言葉にイラッとさせられることはしばしばありますが、同性からの「年を取ると男性の目を意識しないでいられるのは羨ましい」とか「若くて可愛いと得することが多いでしょ」というような言葉も、もちろんマイクロアグレッション。だから広告であれ政策であれ文章であれ、発信者が女性であることを根拠に「女性への攻撃ではない」という理屈は成り立ちません。
幼い頃から男性社会の価値観を刷り込まれ続けてきた女性は、それを自身の中に内面化して「男性に好まれる女性になることが、なんで差別につながるのかわからない」と極めてナチュラルに考えているからです。
さて、アニメーションという手法を用いたジェンダー炎上案件では、SNSでの「延焼」に、如実に「マイクロアグレッション」があぶり出されます。特に私が興味深いと感じるのは2つの視点です。今回の原稿ではそのうちのひとつめをご紹介します。
ひとつめ、それは「男女の視点の違い」。
多くの男性(ときに”女性に理解がある風”の人も)の視点は、「これを性的と攻撃するなんて大げさ。過剰反応しすぎ」というもの。
対する女性たちは「何をしても性的に変換されて見られる経験がない男性には、結局はその気持の悪さが理解できない」という反応です。
何が興味深いって、実はこの行き違いは「セクハラ」とそっくりなこと。
男性がイメージするセクハラは、例えば男性上司が「君にキスしたい」と迫り壁際に女性を追い詰めるみたいな、下手をすりゃ犯罪のような性暴力に近いもの、一発退場でも文句は言えないというたぐいのものです。でも女性の側から言えば、「女は見た目でゲタはかせてもらえる」も「夫がいると働かなくていいから楽だ」も「得意先との接待だからスカート着てこい」も「会社なんだから化粧くらいしたほうが」も「赤ちゃんはママがいいにきまってる」も、ぜーんぶセクハラ系「マイクロアグレッション」。
もちろん男性も理屈ではわかっているかもしれませんが、「そこまで目くじら立てなくても……」と考えているように思いますし、実際にこのくらいなら「イライラしながらもスルーしてくれている」女性の方が多いでしょう。
むしろ問題は「スルーしてくれている(もしくは、スルーしてくれていた)」ことを、男性側がぜんぜんわかっていないことかもしれません。
同書で内田舞さんは「マイクロアグレッション」を「蚊に刺されること」と表現しています。
蚊に刺されにくい人は「蚊に刺されるなんて大したことじゃない」と思っていますよね。でも蚊に刺されやすい人間からすれば、小さい虫刺されであっても、30箇所も40箇所も刺されたらたまったものじゃありません。かく言う私もそのタイプで、鬱憤が溜まりに溜まって、蚊を仕留めるまでは絶対に眠れないとギラつく夏の夜もあります。
そこには「大したことじゃないんだから」と自分に言い聞かせながら、我慢してきた無数の「虫刺され」の歴史があるわけです。そんなときに、蚊にほとんど刺されない人が「ささいなことで大騒ぎしすぎ」と言われたら。「そりゃあんたはいいわよね、全然被害をうけないんだから」とキレたくもなるのでは?
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TVドラマ脚本家を経てライターへ。女性誌、男性誌、週刊誌、カルチャー誌など一般誌、企業広報誌などで、映画を中心にカルチャー全般のインタビュー、ライティングを手がける。Yahoo! オーサー、コスモポリタン日本版、withオンラインなど、ネット媒体の連載多数。食べること読むこと観ること、歴史と社会学、いろんなところで頑張る女性たちとイケメンの筋肉が好き。近著に『大人もハマる!韓国ドラマ 推しの50本』がある。 「Yahoo!オーサー」『映画とドラマの向こう側』 「COSMOPOLITAN」日本版『女子の悶々』 「COSMOPOLITAN」日本版『悪姫が世界を手に入れる』など、寄稿していた連載も多数。 Facebook @atsumishiho X @atmsh_official ポッドキャスト「ハマる韓ドラ」番外編
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