毎日が勝負飯、普通のコロッケ
PANORAMA STORIES
毎日が勝負飯、普通のコロッケ Posted on 2026/02/04 辻 仁成 作家 パリおつかれさまです。 ちょっと忙しくしていたので、今日は手抜きです。 冷凍庫に保存されていた昔、作ったコロッケを解凍して、それを揚げて食べました。 このように、父ちゃんの家の冷凍庫は、毎回、少し多めに作って、いつでも、解凍でらくちん、という食事にむいたものの、宝庫なのです。 ということで、辻家のコロッケ、おさらいです。
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父ちゃんがコロッケという食べ物に感動をしたのは、忘れもしない、高校生の頃のことで、一家は、函館の宝来町、函館山のふもと、旧市街西部地区に暮らしていました。 その宝来町の電停の前に、(今もある)、「阿さ利本店」というすき焼き屋さん。 もともと、角が肉屋さんで、その横で高級すき焼き店をやられていたわけです。 そこの肉屋のコロッケが死ぬほど美味かったんですよ。 グーグルマップで調べたら、「一階で売ってるコロッケも美味いですよー」というコメントがありました。 当時(45年くらい前)から、昼前には売り切れる函館の名物で、これをわざわざ食べるために東京からくる人がいる、という噂もあったくらい・・・。 その頃から、一つの疑問に気付くことになる。 なぜ、コロッケは肉屋で売っているのか、という大問題・・・。 わかります??? これを真剣に考えると、世界一美味しいコロッケを作る秘訣にたどり着くことが出来るわけです。
ちなみに、阿さ利本店のコロッケはやはりジャガイモが北海道産だから美味いというのは一理あるかもしれません。 ジャガイモが美味しいのは大きなポイントだが、研究の結果、そこじゃなかったんです。 ぼくは30年ほど前、東京の肉屋の大将に、思い切って、質問をぶつけたことがありました。なんでこんなに肉屋さんのコロッケはうまいんですかね? 肉屋だから、美味い、というのはおかしいと思ったことはないでしょうか? ぼくは15歳の時から、この謎に迫って生きてきたのであーる。 『辻さーーーん、早く、結論言えよ!!!』 はい、お待たせしました。
肉屋の大将は笑いながら、こう言ったのです。 「お客さん、凄くいい質問ですね。そのことを質問されたことは今までありませんでした」 前置きが長い。これはつまり、衝撃的な結論が隠されている証拠でもある。 「大将、それはなんですか?」 「ふふふ」 大将はもったいぶったわけです。はよ、言え!!! 肉屋の大将は小太りで、頬が真っ赤だった。薄茶色のエプロンをしていて、お腹もぽっこりだった。大きな包丁をぼくにかざして、 「あのね、お肉とジャガイモを半々にするんですよ。美味しく作る秘訣は、それだけです」 と言ったのであーる。 「えええええ???」 衝撃的~。
なるほど、肉はケチっちゃいけないんだ。 だから肉屋のコロッケは美味しいのか・・・。 そこで、ぼくは牛ひき肉を多めに買って帰り、ジャガイモと肉の比率を半々にして、作ってみました。 「美味い!!!! おお、これは確かに美味い!!!!」 それだけかい、とか言わないで。 辻家のコロッケは、玉ねぎと肉を酒とみりんと醤油と砂糖で甘めのしっかりした味付けの肉じゃが風の具を作り、サッと高温で揚げて、サクっと頂きます。えへへ・・・ どうでしょう? 美味そうでしょ? ぜひ、お試しあれ! ボナペティ。
2026年のスケジュール。 現在は、パリの日動画廊でグループ展に参加中。電子書籍「海峡の光」パリのオランピア劇場ライブ盤配信中。 3月11日に、文庫「父ちゃんの料理教室」3月30日に、エッセイ集「キッチンとマルシェのあいだ」 8月5日から三越日本橋本店特選画廊A全面で「辻仁成展、鏡花水月」。 10月、パリ、アートフェア出展の予定 10月後半、仏文学イベント、予定。 11月、リヨンでの個展、予定。同月、パリでのライブ、予定。この頃、小説「泡」刊行予定。他、予定多数・・・。
Posted by 辻 仁成
辻 仁成
▷記事一覧Hitonari Tsuji 作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。
・毎日が勝負飯、「カレー蕎麦」 ・毎日が勝負飯、「バナナロール!」 ・父ちゃんの絵が日本酒のラベルになったのだ