落雷で統計開始以降に約3000人死亡 8月には自衛隊員2人が犠牲、雷害をデータで検証
落雷で統計開始以降に約3000人死亡 8月には自衛隊員2人が犠牲、雷害をデータで検証

落雷で統計開始以降に約3000人死亡 8月には自衛隊員2人が犠牲、雷害をデータで検証

落雷で統計開始以降に約3000人死亡 8月には自衛隊員2人が犠牲、雷害をデータで検証2025/9/16 12:00西山 諒
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反応反応東京都心に落ちる夏の雷

落雷は、地震などとともに命に関わる災害の一つだ。8月18日には、大分県にある陸上自衛隊の日出生台(ひじゅうだい)演習場で、落雷により訓練中の隊員2人が命を落とした。1909年からの人口動態の統計データを集計すると、これまでに雷で約3000人が犠牲になっていることが明らかになった。また、気象庁の雷監視システム「LIDEN(ライデン)」のデータを使った分析では、古くから記録されてきた雷日数の統計は、落雷回数の多さと必ずしも比例しないことが判明。自衛官が亡くなった事故の前後の詳細な状況も分かってきた。

近年も毎年1~2人が死亡

今年4月には、奈良県の学校のグラウンドで被雷した生徒2人が重体となるなど、気象予測が進歩した現在でも、雷による被害は絶えない。厚生労働省が発表している人口動態統計の死因データを集計したところ、1909年から数字が確定している最新の2023年までの約100年間で、雷によって2980人が死亡していることが分かった。全都道府県で死者が記録されており、1943年1月〜1946年9月までの欠測期間、米軍統治下の沖縄県の死者を合わせると3000人を超えるとみられる。

落雷による死者数は、警察庁が個別の統計データの公表を2009年を最後にやめたことで分かりにくくなったが、人口動態の統計データから推移を確認できる。近年でも、2010年と2018年を除いて1〜2人ほどの死者が出ている。

産経新聞が、NTTデータ傘下の民間気象会社「ハレックス」から提供を受けた2025年8月20日までの直近1年間のライデンの雷データを分析したところ、全国のほぼ全域で落雷が発生していることが分かった。気象庁の電磁波アンテナが捉えた小笠原諸島周辺を除く370万5945個の雷の内、43万5591個が日本の陸地に落ちていた。都道府県平均は9268個で、1位の栃木県は平均の3倍以上の3万718個の落雷が発生していた。

栃木県は古くから「雷銀座」として知られてきたが、栃木よりも面積の小さな埼玉県でも直近1年間では数多くの落雷が起きていた。埼玉県は、1平方キロあたりで換算すると年間5.1個の雷が発生しており、全国最多だった。栃木が1平方キロあたり4.8個、群馬が4.3個と、関東地方の隣接した3県が上位を占めた。

対照的に、北海道や東北の青森県、岩手県、宮城県、秋田県は雷が少なく、1平方キロあたり1個以下だった。今年、事故が起きた奈良県も全国的に見れば落雷数は多くなかった。ただし、面積あたりの数が最少の北海道でも、雷鳴が届く10キロ四方では13個の雷が発生しており、全国どこでも注意が必要だ。

東京都心の避雷針=東京都港区のけやき坂

雷対策製品などを手掛ける「昭電」の技術開発部の大林和輝氏は、「都心部では、近年、夏場に急激に発達した積乱雲により、一つのビルに5〜10個の雷が落ちることもある」と話す。一方で、2022年9月には、雷が比較的少ないとされてきた香川県にある国宝「神谷神社」(坂出市)の本殿の屋根が焼けるなど、全国のどこでも被害のリスクはある。

雷日数が少なくても、落雷数が多い地域も

ライデンを使った落雷個数の分析では、気象庁が古くから統計として発表してきた気象台や測候所ごとの雷日数と、実際の落雷の多さは、必ずしも比例しないことが分かった。雷日数が少なくても落雷数が多い地域があり、広く参照されている雷日数だけでは実態をつかみづらい。

気象庁の「雷の観測と統計」では、年間の雷日数(1991〜2020年の平均)において、金沢(石川)が45.1日で全国1位となっており、福井、新潟と冬に雷の多い日本海側の県庁所在地の観測地点が上位を占めている。

しかし、雷の1平方キロあたりの直近1年の落雷数の分析では、金沢は0.7個で全国29位と、夏に雷の多い8.2個の宇都宮(栃木)や7.2個の熊谷(埼玉)と10倍以上の差があった。年間日数では、宇都宮は26.5日で10位、熊谷は20.2日で20位などとなっている。統計開始当初と比べ日本海側の日数が倍増したことで、雷日数と落雷数の上位の地域が一致しなくなっている。

金沢で発生する冬季の雷を研究する大阪大の和田有希講師(大気物理学)は、「日数と回数は別物だ。雷日数は、雷が発生する気象条件が何日そろったかを示している。金沢は冬に雷の日が多いが、活動は夏と比べて強くない。回数では、北関東や九州が多い」と指摘する。

一方で、埼玉県の防災関係者は、「雷日数の上位でないこともあり、回数が全国的にみて高いということを把握していなかった」と漏らした。雷の多さは雷日数の統計で語られがちで、防災にデータを活用しきれていないのが現状だ。

実際の落雷状況の把握はさらに難しい。風力発電所など落雷カウンターを備えた一部の施設を除き、多くの建物では避雷針(受雷部システム)が適切に機能した場合、落雷があったかどうかは記録に残らない。

ライデンのデータで落雷の詳細が明らかに

ライデンのデータは、100m前後の間隔で落雷地点が記録されており、過去データを含めた活用が、減災につながる可能性がある。気象庁は、ライデンのデータを使用し、「雷ナウキャスト」として、1時間先までの雷活動の予測と過去3時間の落雷の状況を公開し、防災を呼びかけている。現在では、多くの気象台で雷日数の判別にも活用されている。

ライデンのデータから8月17日に発生した陸上自衛隊の日出生台演習場での落雷事故を検証したところ、詳細な被雷時刻や、当時の一帯の様子が明らかになった。

防衛省によると、8月17日の15時ごろに隊員2人が死亡したと推測されたが、ライデンが検知した座標データから、2人は「15時10分7.87秒」に発生した落雷で被害にあった可能性が高いことが分かった。後続雷撃の数を示す雷多重度は4で、典型的な夏の雷だった。演習場では、14時53分〜15時22分の間に約34個の落雷が発生していた。

日出生台演習場の丘の上にある監的=15日、大分県玖珠町

日出生台演習場は、大部分が草に覆われた台地にあり、2人は中でも標高799メートルの小高い丘の頂上付近にある「小松台監的」と呼ばれる監視用のコンクリート製の建物の中で見つかった。偵察潜入訓練の最中に、雷が頻発したことで、落雷の危険性のある場所に釘付けになっていた可能性がある。

監的の半径1キロの範囲には、14個の雷が落ちていた。和田講師は、「地面にしゃがむしかない厳しい状況だったと推察される。仕事で屋外にいる場合は、レジャーの場合とは違い、どこまで行動を安全側に寄せ(活動中止の)判断を行うかが難しい」と指摘する。

雷ナウキャストで命を守る行動を

雷ナウキャストは、雨雲の動きを確認できる「降水ナウキャスト」に比べて、認知が進んでいない。気象データに詳しい藤部文昭・元東京都立大特任教授(気候学)は、「雷ナウキャストは、あまり知られていないのではないか」と指摘しつつ、「今、雷が落ちている場所の情報は重要だ」と強調する。雷から命を守るためには、雷ナウキャストやその情報源のライデンのデータの活用が欠かせない。

昨年4月に熊本県の高校生18人が落雷に遭い病院に搬送された事故の報告書が今年5月20日に公表され、その中でも雷ナウキャストの確認が推奨されている。

気象庁の「雨雲の動き」のウェブページでは、「前5分間の雷の状況」を選択すると雨雲の情報とともに、落雷の様子を表示することができる。「雷活動度(雷ナウキャスト)」を選ぶと、雷の危険性がある場所を地図上で確かめることもできる。

気象庁の「雨雲の動き」のウェブページでは落雷の状況が確認できる

ライデンのリアルタイムのデータは、公開を求める声の高まりから、2017年1月から民間企業などが入手できるようになった。防災に役立つデータとして認知され、さらに需要が高まれば、気温や降水量などと同じように利用しやすい形での完全なオープンデータ化の道も開けてくる。報道などでも、発生した雷の個数や時間を具体的に伝えられるようになれば、雷被害に対する解像度が一気に高くなる。

藤部氏は「雷への問題意識が社会的に高まり、データの公開がさらに進めば、(専門家以外も)今までできなかった分析ができるようになる」と話す。落雷のデータが入手しやすくなれば、防災の観点での分析が進むことが期待される。

人口動態統計では、1909〜1949年、1999年以降は都道府県別の雷による死者数が公表されている。2つの期間の合計では、福岡県が62人で最多で、栃木県59人、秋田県56人となっている。福岡は1999年以降でも最多の8人が亡くなっており、雷銀座の栃木を上回って全国最多だ。

九州では、38人死亡の熊本県が全国9位、31人死亡の鹿児島県が13位となっており、注意が必要だ。雷日数や回数が突出していない地域でも、多くの人が亡くなっている。

雷による被害は、防災意識の向上で減らすことができる。和田講師は、「雷は雨と一緒にくる。屋外では、ナウキャストで周囲の気象状況を確認することが重要だ」と訴える。ナウキャストで雨雲と雷の様子を確認し、雷鳴が聞こえたら、屋外での活動は直ちに停止することが命を守ることにつながる。(データアナリスト 西山諒)

※人口動態統計では、秋田県で1914年に43人が死亡とされているが、2017年の藤部文昭氏の論文「落雷死者数の長期変動および雷日数との関係」によれば、当時は落雷死が「震死」と表現されていたため、秋田仙北地震の関連死が誤って含まれている可能性があるという。

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