辰野金吾設計の和風建築 大阪・奥河内の「南天苑」 季節を感じる会席料理
辰野金吾設計の和風建築 大阪・奥河内の「南天苑」 季節を感じる会席料理建築を味わう
2025/9/20 10:30中野 謙二- 産経WEST
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大阪・奥河内の自然に抱かれるように建つ旅館「あまみ温泉南天苑(なんてんえん)」(大阪府河内長野市)。東京駅や日本銀行本店を設計するなど明治・大正期を代表する建築家、辰野金吾が手掛けた作品だ。先の大戦後、半世紀以上その歴史的意義が不明だったが、20年余り前の調査で設計者や歴史的経緯が分かり、国の登録有形文化財に指定された。「わび・さび」を感じられる部屋で季節感のある料理を堪能した。
8月中旬、南海高野線でなんば駅から乗り換えなしで約40分、降り立った天見駅は大阪市内ではほとんど聞くことがなくなったツクツクボウシの蟬(せみ)しぐれであふれていた。無人駅の改札を出て、濃い緑を抜けると1分ほどで目指す建物にたどりつく。
木々に囲まれた3千坪の敷地に建つ木造2階建て。もともとは大正2(1913)年に堺市の大浜公園に娯楽保養施設としてつくられた「潮湯」別館で、家族向けの入浴・遊戯・娯楽室だった。設計は辰野率いる「辰野片岡建築事務所」。西洋建築を得意とした辰野の和風建築は珍しく、現存しているのは奈良ホテル(奈良市)、武雄温泉楼門(佐賀県武雄市)、南天苑の3軒のみという。
昭和9(1934)年の室戸台風で損傷したことを機に、南海電鉄が古来ラジウム温泉が湧く天見の地に移設。当時は有馬温泉に匹敵する温泉地となることを目指していた。昭和10年から大阪の料亭「松虫花壇」が別館として営業していたが、戦火が激しくなるなかで閉鎖。堺市の潮湯本館などは空襲で焼失してしまった。
昭和24(1949)年、山崎一弘代表取締役(65)の父が南天苑を創業。このころには潮湯温泉からの移築は口承となっていたという。だが、平成14(2002)年に明治建築研究会が調査を行い、南海電鉄からも移築当時の資料が発見されたことなどから、辰野建築であることが証明された。
南天苑の一室「泉灘」。緑あふれる庭を楽しめる=大阪府河内長野市(南雲都撮影)14室ある部屋からは庭が眺められ、サクラ、サツキ、サルスベリ、紅葉など四季の草花を楽しめ、敷地内を流れる天見川にはカワセミやホタルが飛び交うという。100年を超える時間が積み重なった柱や手すり、季節の花がいけられた床の間、少し波打った昔ながらのガラス戸。どこか懐かしい、原風景のような空間が静かに流れる。
女将の山崎友起子さん(南雲都撮影)女将(おかみ)の山崎友起子さん(66)は「高度成長期には近代的なものに目がいっていましたが、いまは古いものに価値を見いだす時代になりました」という。エアコン、テレビ、電話などは部屋にはあるが、なるべく見えない場所に収納。山崎さんは「古いものを大切にしつつ、現代の快適性も必要ですから」と笑う。
離れ特別室「清流亭」の囲炉裏=大阪府河内長野市(南雲都撮影)欧米を中心とした外国人観光客も増加しており、これまで96カ国・地域の人が訪れた。3、4泊しても遠くに出掛けず、宿の周辺を散策するなどゆっくり滞在する旅人が多いという。
8月のランチコース「月」。地元農家から仕入れた夏野菜や河内鴨のローストなどが並ぶ=大阪府河内長野市(南雲都撮影)和室でいただく会席料理は、季節にあわせて毎月メニューが変わる。葉月の献立、月コース(税込1万1千円)を選んだ。
オクラ、キュウリ、ずんだ(枝豆)、トマトなど地元農家から仕入れたというカラフルな夏野菜が涼しげな器に盛られ、夏バテ気味の食欲を刺激する。食前酒は庭でとれたブルーベリーや梅、ヤマモモなど自家製という。
河内鴨のローストは滋味深く、うなぎの入ったすましはしみじみとおいしい。竹籠に入ったアユの塩焼きは〝映え〟そうだ。ハモは梅肉と鍋の2種類、山椒を効かせた赤だし、果物のデザートまで堪能した。9月はマツタケなど秋の味を楽しめるという。
昼食、夕食のみの日帰りプランは温泉やプールが無料のため、食事をはさんで1日ゆっくり楽しむ家族連れも多いという。都会の喧噪(けんそう)を忘れさせてくれる別世界で、ぜいたくな時間を過ごすことができた。(中野謙二)
▶営業時間 昼食午前11時半~午後2時、夕食午後6~9時。8800円の「風コース」と1万1千円の「月コース」(いずれも税込み)
▶定休日 なし
▶問い合わせ 電話0721・68・8081
▶住所 大阪府河内長野市天見158
▶アクセス 南海高野線「天見駅」徒歩約1分
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