判明した事実。じつは「がん細胞」は進化する…がん細胞に「進化するチャンスを与えない」という、合理的な戦略の中身
2026.01.29- #進化
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川口 知哉
大阪公立大学大学院医学研究科呼吸器内科学教授
大阪公立大学病院がんセンター長
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先端医療装置に支えられた外科手術、大幅に進歩した化学療法など、華々しい最新の治療法が開発されている「がん」の治療。しかし、残念なことに現在も、多くの先進国で死因トップに君臨し続けるのはがんです。
がんは遺伝などの先天的な要因より、日々の「習慣」に大きく左右されることが明らかになってきており、がん対策の決め手は「予防」であると言われています。しかし、必要だとわかっていても習慣のコントロールはなかなか難しいものです。
患者が後悔するのをもう見たくない――この切実な思いから、新しい概念「がん活」を勧めるのが、内科医師で、大阪公立大学教授の川口知哉さん。
川口さんがこの度出版した著書『「がん活」のすすめ 科学と名言でつくる「がんを寄せつけない習慣」』では、退屈で面白くないがん予防の習慣を、賢者たちの「名言」を支えにして前向きに、軽やかに行う、というユニークなもの。では、「名言でがん予防」とは、いったいどういう方法なのでしょうか。
今回は、「がんは進化するのか」という新しいがん研究の動向と、それを「がんの予防」との結びつきについて考えていきます。
-AD-*本記事は、『「がん活」のすすめ 科学と名言でつくる「がんを寄せつけない習慣」』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
がん細胞に「進化のチャンス」を与えない
日進月歩のがん研究では、新しい動向も見られる。そのなかで「がんが進化する」という考えが広くゆきわたってきた。つまり、細胞集団の中で突然変異が生じると、その環境に適応し たクローンが生き残り、増えていく、という考えである。ここで、進化論で知られるダーウィ ンの言葉を引用したい。
自然選択は有利な変異を保存し、
不利なものを排除する
チャールズ・ダーウィン
(1809-1882 イギリスの自然科学者)
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ダーウィンは『種の起源』を著し、進化論を提唱したことであまりにも有名である。彼が進化論という発想を得たのは、若き日に参加したビーグル号での航海中のことだった。
5年間におよぶ航海の中で南米やガラパゴス諸島を巡り、島ごとに異なる環境に適応した動植物の姿を膨大に観察し、とりわけフィンチという鳥類のくちばしの形が島ごとに異なることに気づいた彼は彼は、「生物は環境に応じて変化する」という確信を抱いた。そして帰国後、20年以上の研究と熟考を経て 『種の起源』を世に送り出し、生物進化の法則を提唱したのである。
つまり、生存に有利な特徴をもった個体が、結果的に次世代へとその性質を残していく仕組みを示したのだ。
がんは進化する… その動きを加速させること
このダーウィンの発想の過程のように、臨床現場での膨大な観察と分子研究の蓄積を通して、「がんは進化する病である」という新しいパラダイムが今日現れてきた。そして、がんの進化が「環境因子」によって加速されることが明らかになりつつある。
「がんは進化する病である」という新しいパラダイムが今日現れてきた photo by gettyimages英国の腫瘍学者チャールズ・スワントンらの研究は、まさにこの点を強調している。
たとえば大気汚染物質PM2.5さらされたマウスでは、肺のマクロファージがサイトカインを分泌することで、もともとは静かに存在していた特定の変異細胞が選択的に増殖し、腫瘍形成につながる現象が観察された。これは主として、新たなDNA損傷を生むのではなく「すでに存在する変異細胞を環境が目覚めさせる」というプロセスであると考えられている。
同様に、喫煙はSBS4の刻印をDNAに刻むだけでなく、慢性炎症や免疫の回避を促し て、すでに存在する変異細胞(クローン)の成長を後押しすると考えられている。
アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドは、DNAの二重らせんを異常につなぎ合わせる「DNA架橋」と呼ばれる損傷を引き起こし、遺伝子の複製や修復を妨げることで突然変異の蓄積に寄与する。
肥満や高脂肪食は脂肪組織を慢性炎症の温床に変え、がん細胞のまわりにある「腫瘍微小環境」、つまり、がんを取り囲む血管や免疫細胞、線維芽細胞などの複雑な環境に、酸化ストレスや成長因子をもたらしやすくすると考えられている。
また、感染症では、ヒトパピローマウイルス(HPV)やB型肝炎ウイルス(HBV)がウイルスたんぱくを介して遺伝子の安定性を揺るがすと同時に、炎症を誘導してがん細胞にとって有利な環境を形成することが示唆されている。
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