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衝撃を呼んだ「氷の微笑」の1シーン(TriStar Pictures)

 1992年の大ヒット映画「氷の微笑」のリメイク企画が進んでいる。

 権利を獲得したのは、Amazon MGMスタジオ傘下のユナイテッド・アーティスツと、同社と製作契約を結ぶ大物プロデューサー、スコット・ストゥーバー。脚本は、オリジナル同様、ジョー・エスターハスが執筆する。新たな監督は発表されていない。オリジナルは、後に悪名高き「ショーガール」も手がけた、セックスとバイオレンスをこよなく愛するポール・ヴァーホーヴェンが監督した。

 マイケル・ダグラスとシャロン・ストーンが主演したあのエロチックスリラーは、批評家の評価は分かれたものの、4,900万ドルの製作予算に対し全世界興収は3億5,300万ドルと、興行面では大成功。北米公開当時34歳の誕生日を迎えたばかりだったストーンは、とりわけその頃のハリウッドの女優に対する基準では「遅くして」ブレイクを果たすことになった。

 彼女が演じるキャサリン・トラメルは、セクシーで、ミステリアスで、心理学に通じた、他人の心を操る達人。魅力的な役ではあるが、ヌードと激しいセックスのシーンがたっぷりあるため、ダグラスが最初に希望していたキム・ベイシンガーをはじめ、ジュリア・ロバーツ、メグ・ライアン、ミシェル・ファイファー、ジーナ・デイヴィスなど有名女優は軒並み出演オファーを断った。

 そんな中、モデルから女優に転身したは良いが作品や役に恵まれずに来たストーンは、自力でこの脚本を入手し、「オーディションを受けさせてほしい」と数ヶ月間かけて懇願。リスクを負うプロジェクトだけに相手役に有名女優を希望していたダグラスは、ストーンとのカメラテストを拒否し続けるも、最終的に同意した。

完成作の試写室は関係のない男たちで埋め尽くされていた

 ついに役を手にし、製作のトップらと顔合わせをした時、プロデューサーのひとりはストーンをなぜか「カレン」と呼び続け、「君は我々の第1希望ではなかった。第2希望でも第3希望でもなかった。君は第13希望だ」と、面と向かって言ったと、ストーンは回顧録「The Beauty of Living Twice」で振り返っている(そのプロデューサーは撮影中も、ポストプロダクション中もずっと彼女をカレンと呼び続けたが、この映画で有名になった後に顔を合わせると、やっと本当の名前で呼んだ)。

 そのように、自ら望んで飛び込んで行ったストーンは、この役に要求されることを理解していた。しかし、白のミニワンピースで椅子に座り、脚を組み直したところで下着をつけていない局部が見えてしまうあの衝撃のシーンは、完全に不意打ちだった。そのシーンの撮影で、ストーンは、「白が光を反射しているから下着を取ってくれ」と言われ、その通りにしただけ。あのような意図があったと知ったのは、初めて完成作を見た時だ。

 完成作の試写が行われた部屋は、映画と何の関係もないエージェントや弁護士で埋め尽くされていたという。その男性たちは、あのシーンで何が起きるかを知っていたのだろう。シーンを見たストーンは、ヴァーホーヴェンに歩み寄り、平手打ちを食らわせて、部屋を出ると弁護士に電話をした。

 ヴァーホーヴェンは、ストーンは現場で「何をやっているかわかっていた」と、矛盾するコメントをしている。それに対し、彼女は、「この事柄については違った意見があるけれども、問題となっている性器の持ち主は私なので、『ほかの意見は全部嘘』と言わせてもらう」と回顧録に書いている。

ストーンには公開を差し止めることができた

 俳優本人の同意なしにあのようなシーンを撮影するなど、「#MeToo」後の今日では、絶対にありえない。そんなことをやったなら、監督は激しい非難を浴び、業界を追放されるだろう。

 だが、当時でも、ちゃんと決まりはあった。ストーンは、あのシーンがあるままの状態での公開を阻止することができたのだ。それは、彼女の弁護士が教えてくれた。

 まず、俳優を守ることを目的とする全米映画俳優組合が、彼女の強い味方となってくれる。それに、あのシーンがあることで、映画は17歳以下の観客の入場が禁止される「NC-17」指定を受けてしまう。「NC-17」の映画を上映しないことをポリシーとする映画館は多く、ヴァーホーヴェンは、保護者同伴なら17歳以下も入場できる「R」指定を受ける範囲でこの映画を作ることを、スタジオと約束していた。

 ストーンが弁護士から聞いたことを伝えると、ヴァーホーヴェンは、ただの女優である彼女に選択肢はないと突っぱねた。だが、彼が認めたくなくても、ストーンには選択肢があった。そして彼女は、何もしないことを選んだ。その理由として、彼女は、「映画にとっても、キャラクターにとっても、それが正しかったから。それに、私は、実際のところ、あのシーンを撮ったのだから」と、回顧録の中で述べている。さらに、「私自身がこの映画の監督で、あのシーンを手に入れていたらどうしただろう?」、「私はこの役をやりたいと強く望んでいた。そんな私を認めてくれたのはこの監督だけだった」など、いろいろなことを考えたとも、ストーンは明かす。

現代の若者は映画やテレビにセックスシーンを求めない

 おかげで、ヴァーホーヴェンはあのシーンを残したまま、アメリカ映画協会(MPAA)に完成作を提出。しかし、MPAAが「NC-17」を指定してきたため、ヴァーホーヴェンは、セックスやバイオレンスのシーンをいくつかカットしなければならなかった。「R」指定に変更してもらうために編集をやり直すこと、なんと8回。だが、意外にも、ストーンが脚を組み直すあのシーンについて、MPAAは、一度も、何も言ってこなかったそうだ。未だ語られ続ける強烈なシーンを見逃したことについて、当時のMPAAの担当者は、公開後、何を思っただろうか。

 とにかく、これから作られるリメイク版が、同じくらいショッキングで論議を呼ぶものになるのかどうかは、興味深いところ。ただ、何をやるにしても、今はあんな無理強いは断じて許されない。一方で、今や、映画でも、配信ドラマでも、とくにセクシュアルな内容の作品でなくても俳優の全裸が出てくることは、珍しくなくなった。だから、それだけで話題を集めることは難しい。さらに、現代の若者は、映画やテレビドラマにセックスシーンを求めていないという研究結果もある。

 そんなふうに、時代も価値観も大きく違っている中、現在80歳のエスターハスは、観客の心を惹きつけるようなものを書けるのか。その過程を見届けていきたい。

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