超新星爆発を通じて可視光線でもブラックホール誕生の瞬間を観測できる可能性
恒星進化の終着点のひとつ、ブラックホール。一般的に、太陽の8倍から30倍程度の質量で形成された星は、恒星としての寿命の終わりに超新星爆発を起こし、中性子星やブラックホールを残すと考えられています。
その一方で、太陽の30倍を超えるような質量で形成された、さらに巨大な星の場合は事情が異なります。星自身の重力が強いため、外層を吹き飛ばすような爆発を起こすことができず、そのまま潰れてブラックホールになるという「直接崩壊」とも呼ばれるシナリオが有力視されてきました。もしもこのシナリオが正しければ、ブラックホール誕生の瞬間には可視光線を含む電磁波がほとんど放出されず、光学望遠鏡で観測することはできないでしょう。
しかし、この通説とは異なる振る舞いを示した大質量星についての研究成果を、京都大学の前田啓一教授を中心とする国際研究チームが報告しました。ある超新星の観測結果から、ブラックホールになるような大質量星であっても、条件によっては超新星爆発を起こすことが明らかになったのです。
これは、従来「暗い」と考えられてきたブラックホール誕生の瞬間が、実は可視光線でも観測できる場合があることを示唆しています。
【▲ 今回の研究成果をもとに描かれた超新星「SN 2022esa」の想像図。京都大学のプレスリリースから引用(Credit: 前田啓一, 京都大学)】特異な特徴を示した超新星「SN 2022esa」
研究チームは、2022年3月に検出された超新星「SN 2022esa」の詳細な追跡観測を行いました。
京都大学岡山天文台の「せいめい望遠鏡」や国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」を用いた分光観測(電磁波の波長ごとの強さの分布であるスペクトルを得る観測手法)の結果、研究チームはこの超新星が「Ic-CSM型」と呼ばれる特殊なタイプであると結論付けました。
通常の「Ic型」超新星は、水素やヘリウムの外層を失って炭素や酸素でできたコア(核)が残った大質量星が起こす現象として知られています。一方、「Ic-CSM型」は、暗くなっていく過程で特徴的な明るさの変化などを示すIc型超新星です(CSMはcircumstellar medium=星周物質の略)。
SN 2022esaは通常のIc型超新星よりも明るく、長期間にわたって輝き続けるという特徴がありました。解析を進めた研究チームは、SN 2022esaの光度曲線(時間の経過にともなう明るさの変化を示したグラフ)に、これまで数例しか確認されていないというめずらしい特徴を見出しました。
それは、超新星の明るさが時間の経過とともに全体的に減光していく過程の中で、約30日ごとに明るさが増減するという規則的な変動でした。超新星爆発は一回きりの現象であり、通常は単調に暗くなっていくはずなのに、SN 2022esaは周期的な明るさの変化を示したのです。
明るさの変化は連星が形成した同心円状のリング構造が原因?
SN 2022esaの特徴的な振る舞いを説明するために導き出されたのは、爆発した星が単独ではなかったというシナリオです。
研究チームは、SN 2022esaとして観測された超新星爆発を起こした大質量星が「ウォルフ・ライエ星」だったと結論付けました。ウォルフ・ライエ星は大質量星が進化した姿で、星の外層から恒星風として大量の水素を放出して失ったことで、炭素や酸素でできた核がむき出しになっているとされる天体です。
SN 2022esaの場合、爆発したウォルフ・ライエ星は、別の天体(ウォルフ・ライエ星かブラックホールの可能性)と連星をなしていたと考えられます。重要なのは、連星の軌道が整った円形ではなく、細長い楕円形をしていたとみられる点です。
連星をなす2つの星は約1年周期で互いを公転し合っていましたが、軌道が細長いので、周期的に接近したり遠ざかったりします。最接近するタイミングを迎えた時、連星の相互作用によって、後に爆発するほうのウォルフ・ライエ星から炭素や酸素を多く含むガスが周囲へと放出されます。およそ1年ごとに繰り返された相互作用の結果、連星の周囲にはガスのリングが同心円状に形成されたというのです。
やがて、片方のウォルフ・ライエ星が超新星爆発を起こします。爆発の衝撃波がリングに衝突すると、運動エネルギーが電磁波に変換されて一時的な増光が発生。リングは同心円状に存在するので、内側から順に衝撃波が到達することで、増光は周期的に繰り返されることになります。
SN 2022esaで観測された「約30日ごとの明るさの増減」は、こうして発生したのではないか、というわけです。衝撃波はガスの拡大速度よりも10倍ほど速く、約1年間隔で形成されたリングを約30日ごとに追い越すことになったとみられています。
【▲ 超新星「SN 2022esa」の爆発前・爆発時・爆発後の様子を示した想像図。京都大学のプレスリリースから引用(Credit: 前田啓一, 京都大学)】大質量星と重力波源のつながりを解き明かす手がかりになるか
今回の研究成果には、大きく2つのポイントがあります。
第一に、SN 2022esaのようなIc-CSM型超新星の一部が、ブラックホールの形成をともなう可能性が高いことを示したこと。
爆発を起こしたウォルフ・ライエ星は、その質量をもとに、中性子星ではなくブラックホールを残すと考えられます。これまで、大質量星の最期は「爆発せずに暗い」と考えられてきましたが、今回の研究は、その一部がIc-CSM型超新星として明るく輝きつつもブラックホールを残す可能性があることを示しました。ブラックホール誕生の瞬間を可視光線で捉える新たな道が示されたと言えます。
第二に、SN 2022esaが起きた連星が、将来の「連星ブラックホール」の前駆天体である可能性です。
この連星は超新星爆発の後も生き残っている可能性が高く、伴星が恒星としての寿命を終えた後は(場合によってはSN 2022esaの発生後すでに)ブラックホールどうしの連星が残される可能性があります。2つのブラックホールは互いに公転しながら重力波を放出し、最終的には合体する運命にあります。
近年では、「LIGO」や「Virgo」といった重力波望遠鏡によって、連星ブラックホールの合体にともなう重力波が検出されるようになりました。こうした連星がどのような進化を経て形成されたのかは謎に包まれていましたが、SN 2022esaは、謎を解くための貴重な研究対象になることが期待されます。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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