ボールを見るということ
1980年代までの日本の卓球界では、インパクトまで顔の正面でボールを見ることが正しい基本とされていた。インパクトまでボールを見るのはもちろんのこと、横目で見ると遠近感が狂うので、顔の正面でボールを見なくてはならないという理屈だった。
そのため、正統派の指導を受けた選手たちは中学生も高校生も例外なく首を回して顔の正面でインパクトを見ていた。
ところが1990年代になると、あまりにラリーが速くなり、そのラリーを実行している中国やヨーロッパの選手たちがさっぱりインパクトを見ていないことが目立ってきて、次第に日本選手もインパクトを見なくなり、今では美誠パンチに限らず、ほとんどの打法で、インパクトを見なくてもよいことが常識となっている。
「首を回してインパクトを見る必要はない」ということを日本で初めて活字にしたのは、かつてヤマト卓球株式会社(現ヴィクタス)が発行していた「TSPトピックス」という雑誌だった。現卓球王国編集長、今野さんが編集していたものだ。
それは1992年1月号に掲載された「ボールを見て打つのウソとホント」という特集だった。
これは、現代卓球ではインパクトを見る必要がないことを数々の写真でこれでもかというほど実証するものだった。トップ選手の誰もインパクトを見ていないことの動かぬ証拠が写真に写っているので、その説得力は絶大だった。
この記事の衝撃は大きく、まさに当時の読者の目から鱗を落としたものだった。実際の全国の読者の反応は知るよしもなかったわけだが、私の周りの2、3人がそうだったので間違いない(笑)。
これが旧来の卓球人にとって、いかにセンセーショナルな記事だったかを物語るのが、次のエピソードだ。
この号が出るやいなや、今野さんは、今野さんの卓球の師匠かつ当時国際卓球連盟会長だった荻村伊智朗に自宅に呼びつけられ「何を考えてるんだ!」とものすごい剣幕で怒られたというのだ。
そして荻村は、その年の5月号に大々的な反論の記事を寄せることになる。