押井守×『装甲騎兵ボトムズ』への驚きと納得 高橋良輔との対話から窺える大いなる期待
押井守×『装甲騎兵ボトムズ』への驚きと納得 高橋良輔との対話から窺える大いなる期待

押井守×『装甲騎兵ボトムズ』への驚きと納得 高橋良輔との対話から窺える大いなる期待

 気になるところがあるとしたら「灰色の魔女」という副題だ。過去のいくつかの作品で、押井監督は「灰色」というモチーフを使っている。たとえば実写映画の『アヴァロン』(2001年)。ゲーム世界で戦うプレイヤーを描いた作品で、どこか虚無的な雰囲気を漂わせるヒロインの名前が「アッシュ=灰」だった。『アヴァロン』には押井監督による小説版『Avalon 灰色の貴婦人』もあって、謎めいた存在として「灰色の貴婦人」が登場する。

 『パトレイバー』を実写で撮った『THE NEXT GENERATION -パトレイバー-』にも、戦闘ヘリコプターの圧倒的な操縦技術を持ちながら、正体が謎の女性として「灰原零」が登場する。こうした散りばめられたキーワードの向こう側に、何か深淵な設定が用意されているような可能性が見え隠れする。

 押井監督がストレートなロボットアニメを作るのかといった思いも、押井監督の長年のファンなら当然のように抱くだろう。『ルパン三世』の監督に浮上しながら、ルパン三世はいなかったのではというあまりにアバンギャルドな脚本を用意して反対にあい、降板となったことは知られた話。横山光輝の漫画が原作で、何度もアニメになった『鉄人28号』を舞台化したときは、ロボットが動き回るようなものにはせず、象徴としての鉄人を奪い合う者たちを通して、戦後の復興に向かっている昭和の社会の光と、葬られた闇の存在を暴こうとした。

 「表現を獲得できないアニメーションの仕事はやらない」と『Newtype』の対談で言い、高橋監督がそこにあるコップを普通に出すとするなら、自分は「コップがコップであるゆえんまで演出したい」と話す押井監督が、スコープドッグの存在そのものに迫るような思弁性の高い物語に仕立ててくる可能性も捨てきれない。キリコやフィアナが登場するかどうかなどそれ以後の話で、登場しなくても何も不思議はない。

 とは言え、高橋監督が生み出して大きく育て上げた『ボトムズ』への敬意はしっかりはらい、自身も含めたファンが望む『ボトムズ』というものを作ろうとする意識だけは持っていると思いたい。実写版の『パトレイバー』でもしっかりとレイバーは出し、特車二課の面々のドタバタとした日常も濃密に描いてファンを喜ばせつつ、周囲で起こるドラマによってテーマ性を問うた。『ボトムズ』でもそこは裏切ることなく、それでいて押井監督ならではといったものを見せてくれるに違いない。

 犬も含めて。

■作品情報 『装甲騎兵ボトムズ 灰色の魔女』 監督:押井守 制作:サンライズ 制作協力:Production I.G ©SUNRISE 公式サイト:https://votoms-gh.com 公式X(旧Twitter):https://x.com/votoms_gh

タニグチリウイチ Follow on SNS

愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

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