スナックで飲む/絶望ライン工 独身獄中記 第62回
スナックで飲む/絶望ライン工 独身獄中記 第62回暮らし
公開日:2026/2/4
この連載を最初から読む→独身獄中記と表題にあるように、私はまごうことなき独身中年男性である。我々は皆寂しい。孤独で哀しくて、お金があんましない。つらい現実を忘れるには飲むしかねぇ、それも正体がなくなるまでだ。それなりの店で飲むと高いですから、安いチェーン店か6畳の城でもっぱら手酌酒。でもたまにどうしても寂しい夜がある。ああ誰かと飲みてえぜ。他愛のない話をしながら、ニコニコ楽しく酔っ払いたい。
そんな時は色町に繰り出し、色情に誘われるままネオンに吸い込まれちまえばいいが、残念ながらそう簡単に事は運ばぬ。前項で述べたように、我々はお金があんましないのだ。「あんまし」なのでチョットある。チョットのお金で楽しく飲める素敵なお店──そこでスナックの扉を叩く。
思い返せば学生時代、バイト先の社員殿に連れていかれたのが、私の初陣である。薄暗い狭い店内で知らんオッサンがカラオケで盛り上がっている異様な光景に驚き、これならスカバンドでも見に行くほうがまだマシだと思った次第だ。以下に女性の読者(だぁいちゅき)にもわかるようこういった店の形態について簡単に触れる。
・キャバクラ麗しきキャバ嬢によるショートレンジ接待店。オッサンの隣に座って接客するが深夜帯の営業はできかねる為「アフター」が存在する。キャバ嬢はいつの間にか中高生の人気職となり、なりたい職業ランキングではYoutuberに次いで2位らしい。
・クラブ麗しきホステスによる非接触高級接待店。一度担当となったホステスは生涯に渡って添い遂げるしきたりであり、指名の変更はできない。深夜営業不可、高額な料金に加え一見さんお断りやで。非接触であるが一部ホステスの髪を引っ張る等のびのびと羽根をのばす客もいるとか。
・ラウンジ麗しきラウンジ嬢によるミッドレンジ飲食店。オッサンの隣に座るが0時以降営業する場合は風俗店の扱い、それに則りカウンター接客になるらしい。シンデレラみたいで素敵ね
・ガールズバー麗しきガルバ嬢によるロングレンジ非接触飲食店。カウンター越しにオッサンと話す。飲食店のため深夜営業可能。ガチ恋から金を巻き上げる。
・VTuber麗しきVTuberによる大陸間弾道遠隔接待店。銃身内部のライフリングにより螺旋を描くスパイラル・チャットでガチ恋から金を巻き上げる。
・コンカフェガチ恋から金を巻き上げる。
・スナック麗しきママとキャスト達による非接触優良軽食店。飲食店なので深夜営業ができるが隣で接客すると風営法違反になるためテーブルを挟んで座る。自分のような寂しいオッサンがたくさんいる。
こういった店は食品衛生法に基づいた「飲食店」と風営法に基づく「接待店」に分かれるようで、調べていくと随分と面白い。飲食店で接待すると風営法上無許可営業で摘発される。ガールズバーやスナックは飲食店なので、おしぼりを手渡しただけで接待行為にあたるとか。無茶苦茶である。毎夜スナックで開催されているカラオケデュエットも勿論違法行為で、たまたまオッサンとキャストが同じ曲を偶然歌っている扱いになるそうな。ここはすごい法治国家である。かくいう私もスナックレディと楽しくおしゃべりしているように見えるが、実際はお互い偶然同じ話題で独り言をしているにすぎない。
そしてスナックが魅力的である最大の理由は、利害のない知らんオッサンと会話できる点にある。齢40を超えて男と男が出会えば斬り合いが始まる、ポジショントークである。仕事は何をしている、家は賃貸だ持ち家だ、家族がどうたら、肩書がどうたら。俺達は現代社会の侍だ、袖がふれたら斬り合わずにはおれん。スナックでそれは起こらない、ここでの帯刀は許されず。入口で名前も素性も肩書も全部置いてくるのだ。社長も部長も絶望ライン工も皆等しく価値がない、我々は皆酔っぱらった気持ち悪いオッサンである。
そんな酔っ払いが気持ちよさそうに歌うカラオケがまた良いんです。名もなき一般国民の歌を間近で聴く機会なんてそうそうない。彼らは家族でも友人でも仕事の人でもない不思議な仲間である。オッサンが歌うハマショウを肴に60分1本勝負飲み放題、焼酎をよくわからん何かで割ったやつを力の限りゴクゴク飲んで、ご機嫌にお会計するってわけ。
「ママ、領収書頂戴。宛名は無しで。あとタクシー1台お願い」扉を出る最後の瞬間まで、役職持ちであるかのように気持ちよく振舞うことができる。「やっぱりタクシーは自分でつかまえるわ、ごちそうさま」そう言って店を出ると、駅まで歩いて電車に乗って帰るのだった。
<第63回に続く>あわせて読みたい
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